馬鹿なことをやっているなって、ふと笑ってしまうことがある。誰もがそうであろう。些細なことが笑いを誘うことがある。私たちの日常には、そういったことがある。私たちは、ふと笑ってしまうことに無防備なのである。うかつにも笑ってしまうのである。
無防備になってしまうことに分別をきちんとつけることが出来るだろうか。この位なら大丈夫だろう。この位なら許されるだろう。この位が大丈夫なら、これも大丈夫だろう。このように少しづつはめを外し続けていってしまったら、どこで分別をつけることが出来るのだろうか。こういったことにどういった敷居を設けることが出来るのだろうか。
番組内容に対する批判を受けて、ダウンタウンの松本人志は、「ガイドをつくってほしい」と言った。
私は、この発言を聴いて、芸人として、こんな発言をするというのは、どうなんだろうかと感じた。どう理解すればよいのだろうかと感じたのだ。そこで、まず、芸人として芸がないと感じたのだ。このようなことをお笑いにしたことに、批判の声が多くあがった。そこで、ならば、してはいけないことのルールブックを設けてほしいと*¹要求したのである。仮にも、表現の世界、芸の世界に生きる者としての模索を感じないのだ。批判の声がたくさんあったことに対して、開き直った態度だったといえよう。仮にもダウンタウンの松本人志である。誰もが認める、お笑い界の一角を占め、レギュラー番組をいくつも持つ芸人である。*²
お笑いグループのダウンタウンが出演している番組の内容で、批判を多く集めたことについて、手がかりを探った。差別的な文脈について、鈍感であることについてである。差別的な文脈について、鈍感ではないかというところから探ったのである。それは、人が痛みを感じることを安易に笑いに変えてきたことの軽率さと関係している。深みにはまってしまったところにあった差別や暴力を隠蔽したものに、鈍感になって、感受性が鈍ってしまった。そんな大衆は、そもそも無防備であるはずだ。無防備になってしまうことと無防備である状況は、つけ込むのには容易である。そして、彼らに罪のないふりをする舞台を設ける必要が生じたら、それほど困難はないのではないか。確信犯がいたら、我々は、なす術が無くなりはしないだろうか。あの事件から、そんな危惧を感じたのである。
タレントのベッキーが、番組で「逆ドッキリ」として腰に強烈なタイキックをされるという番組内容に多くの視聴者から批判があった。番組は、昨年(2017年12月31日に放送された。「ダウンタウンのガキの使いやあらへんで! 大晦日年越しスペシャル!「絶対に笑ってはいけない アメリカンポリス 24時」」)の大晦日に放送した。タイキックをする役は、女性ボクサーだった。彼女(ボクサー)は、キックを蹴り出した。それをベッキーは、防御も出来ず、逃げることも出来なく、そのキックを受けて、痛みに耐えなければならない。問題となったのは、この様子を笑えという番組内容にであった。この番組の出演者は、爆笑していた。これが批判を受けた番組内容である。このタイキックを無防備に受けざるをえない様子、それをお笑い番組の内容としたことに批判がされた。テレビの画面には、テロップで「ベッキー 禊(みそぎ)のタイキック」と表示されていた。ベッキーは、2016年に音楽のバンドグループ「ゲスの極み乙女。」のボーカル川谷絵音(当時、結婚していて妻がいた)と不倫したとして報道(週刊文春)があった。ベッキーがこの番組に出演する前の出来事を思い出した視聴者がいたことだろう。こういったことも重なり、この番組内容を流せる悪ふざけとして受けとめることが出来なかったのではないか。
同じ番組の中で、お笑い芸人、ダウンタウンの浜田雅功が、アメリカの俳優のエディマーフィーに扮して肌を黒くメイクしていたが、それが差別の文脈を読み取れるという批判が多くあった。ブラックフェイスは、肌の色を差別することがあることから、アメリカではデリケートな意味合いを含むことと考えられている。このことに無頓着に、お笑いに利用していた。ダウンタウンの浜田雅功や出演者を含め番組制作関係者は悪気は無かったかもしれない。ならば、なおさら、肌の黒いということを差別することがあることに対してあまりにも不用意であったといえよう。
この番組は、全国ネットのテレビ局で放送した。
この番組は、去年の大晦日に、特番として放送した。大晦日であることから、6時間という長い時間の番組となっている。大晦日から元旦を迎える時、そして、お正月は、テレビ各局が特番を組む時期である。大晦日に年越しそばを食べて、初詣に出かける人は、少なくなかろう。大晦日であるから、家族で団らんしてテレビをみていた者も少なくなかろう。問題となった番組は、この時に、放送された。番組では、季節もあり、特別にはしゃぐといった番組制作の意図があったかもしれない。番組が放送された時期を振り返ると、指摘を受けることになった番組内容をつくる背景として記すことが出来る。
*¹
私も笑います。馬鹿だなーって、笑うことがあります。笑うことが嫌いなのではありません。怒ることが好きなのではありません。
*²
社会学者の好井裕明は、『差別を語るということ』という論文で、次にように言っている。
(2019年6月24日 加筆)
私も笑います。馬鹿だなーって、笑うことがあります。笑うことが嫌いなのではありません。怒ることが好きなのではありません。
*²
社会学者の好井裕明は、『差別を語るということ』という論文で、次にように言っている。
たとえば、差別表現の指摘も、私たちが「傍観する実践」に気づき、差別する可能性を考える重要な営みだろう。もちろんこれまで盛んに論じられてきたように、言葉がもつ差別的な意味とはどのようなものかの実質的検討を回避し、事なかれ主義を徹底した差別用語自主規制のような問題はあろう。しかし、差別表現が使用されたとき、直後に「ただいま不適切な表現が使われたことはおわびします」と聴くことで、私たちは少なくとも、いま,ここで差別的な何か、このまま放置しておけばさらに広がっていく可能性をもつ差別のきざしがあったことに気づくことができるのである。松本は、ガイドをつくってくれと言った。私も本文でふれているが、好井は、この論文で、差別用語の自主規制のようなことは問題視している。 この番組内容がネットで炎上した。このネットの炎上に気づいた者の中には、好井のいうような差別表現が使われた時のきざしをえた者があり、気づくきっかけになる可能性があっただろう。
(2019年6月24日 加筆)
〈この記事の元となった私のつぶやき〉(twitter@kfrtofe)
日テレさんは、再放送されたんですね。
最初から、再放送することが決まっていて、今からプログラムのさしかえが困難だったとしても、これだけ意見があり、問題提起がされているのに、どうなんだろうと思います。
社内でこういった問題提起を受けてなんかされたんでしょうか。
気になるところです。
「こういう解決でいいんでしょうかね?
>「ガキ使」特番でベッキーに“タイキック“ 本人は「ありがたかった」と感謝するも、ネットでは議論が噴出(ハフポスト日本版) - Yahoo!ニュース 」
三宅雪子さんの配信でもこのベッキーさんの番組での発言とこういったことを是とすることは違うのではないかの話をしていました。志葉さんもつぶやいています。
その通りでしょう。
(三宅雪子 https://twitcasting.tv/miyake_yukiko35)
(志葉玲 https://twitter.com/reishiva)
浜田さんをはじめ出演者、番組制作者などを含めた人が番組に関わっています。私には、そういった番組関係者との関係はわかりませんけど、ベッキーさんは、大事に至らなくて、お気持ちがその通りであれば、それで良いのでしょう。
しかし、あのような番組内容を是としていいのかとは、わける必要があるでしょう。
こういった声に少し番組関係者は、単に事なかれ主義に走れば、以前このままか、反対に規制とか萎縮とかあるかもしれません。少し真摯に受けてみたらいかがでしょうか。
小島慶子さんは、自分が子供の時の番組についてつぶやかれています。グローバル化した社会で、情報通信技術の発展した社会で、テレビ番組が閉鎖的な体質に課題があるのかもしれないと感じます。
(小島慶子 https://twitter.com/account_kkojima/)
訂正>
BBCでも報じたんですね。
多分、全国ネットのテレビ番組内での出来事だったんでしょう。
澤田さんは、無神経という言葉を引用していますが、お笑いの世界の人の中に、グローバル化した世界で、情報通信技術の発展が著しい現在においても、感受性が鈍かったところがあったんでしょう。
(澤田愛子 https://twitter.com/aiko33151709)
14日の松本さんの発言は、芸人として如何なものかと思います。
>「顔黒塗りのネタ、批判を考える 差別意識無くてもやめて:朝日新聞デジタル」
「日本民間放送連盟放送基準」があります。日テレは、朝日新聞の取材にこたえて、意見は、今後の番組づくりの参考にさせてもらうといっている。番組内容についての意見は、ブラックフェースをして笑いなどの表現を番組として放送することについて、差別について鈍感ではいられないということだろう。
テレビ局は、番組内容について、これまでも自主的な取組みをしてきている。一方、松本さんの番組での発言は、ルールブックを設けてほしいというものであるが、芸人が芸を放棄しているともとれる開き直ったものである。
〈参考記事〉
「顔黒塗りのネタ 批判を考える」
「差別意識無くてもやめて」「世界の常識 配慮した番組を」(朝日新聞朝刊 2018年1月19日)
「「ガキ使」特番でベッキーが受けた“タイキック“に批判殺到。本人は「ありがたかった」と感謝するも…」(2018年1月7日/HUFFPOST)
「「ガキ使」浜田雅功の黒塗りメイク BBCやNYタイムズはどう報じた?」(2018年1月6日/HUFFPOST)
「「笑ってはいけない」浜田の黒塗りメイクが物議 黒人作家が語った不安」(2018年1月3日/HUFFPOST)
「ガキ使『黒塗り問題』に、松本人志「言いたいことはあるけど、面倒くさいので浜田が悪い」」(2018年1月14日/HUFFPOST)
「ベッキー ガキ使“タイキック”は「タレントとしてありがたい」」
(2018年1月7日 /ORICON NEWS)
「日本の大晦日お笑い番組で黒塗りメイク 怒りと反発も」(2018年1月5日/BBC)
「「日本は無知な国と思われる」 芸人の黒塗りメイク」(2018年1月5日/BBC)
「松本人志が黒塗り問題に「浜田差別」とギャグでごまかし逃げの一手!「ルールブックを作れ」と責任転嫁発言も」(2018年1月14日/LITERA)
「【吉本興業からの回答を加筆し再アップ!】日本は人種差別に無知な国!? ダウンタウン・浜田雅功氏の黒塗り批判を英BBCが世界に発信!! 2018.1.9」(IWJ)
〈参考〉
柄谷行人『日本近代文学の起源』(講談社、昭和63年)
柳田國男『夢と文芸』
放送倫理基本綱領(NHK 民放連)
>https://www.bpo.gr.jp/?page_id=1299
日本民間放送連盟 放送基準
>https://www.j-ba.or.jp/category/broadcasting/jba101032
2016年1月14日号「週刊文春」
>http://shukan.bunshun.jp/articles/-/5754
まさに“ゲスの極み”?
ベッキー31歳禁断愛
お相手は紅白初出場歌手27歳!
糟糠の妻の存在を知りながらも離婚を催促。元旦には男の故郷長崎へ極秘“婚前”旅行!
「ダウンタウンのガキの使いでやあらへんで!」(日本テレビ) >http://www.ntv.co.jp/gaki/special_2017/
>http://www.ntv.co.jp/gaki/r_backnumber/2017.html
>http://www.ntv.co.jp/gaki/r_backnumber/2017.html
「ワイドナショー」(フジテレビ)
>http://www.fujitv.co.jp/widna-show/
好井裕明 「『差別を語るということ」『年報社会学論集』『社会学評論
/55 巻 (2004-2005) 3 号』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsr1950/55/3/55_3_314/_pdf/-char/ja
(2019年6月24日 追加)
(2018年5月15日 誤字脱字の訂正)
(2019年6月24日 加筆、追加)
好井裕明 「『差別を語るということ」『年報社会学論集』『社会学評論
/55 巻 (2004-2005) 3 号』
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jsr1950/55/3/55_3_314/_pdf/-char/ja
(2019年6月24日 追加)
(2018年5月15日 誤字脱字の訂正)
(2019年6月24日 加筆、追加)
0 件のコメント:
コメントを投稿